今回は、世界でロングセラーになっている、社会心理学の本「影響力の武器」を解説したいと思います。
影響力の武器とは、一言でいうと「承諾の心理」のことが書いており、どのような心理学的な原理が相手の要求を受け入れる傾向に影響を受けているのかを解説した本です。
それでは早速解説していきます。
Contents
カチッ・サー(固定的動作パターン)
動物や人間には、深く考えず機械的に行動するパターンが存在します。
「カチッ」とボタンを押すと、その場面に適したテープが動き出します。
そして「サー」とテープが回って一定の標準的な行動が現れるのです。
影響力の武器より
例えば、七面鳥の母鳥は、優しくて用心深く、ヒナを守る性質がありますが、母鳥がヒナの世話をするきっかけになるのは、ヒナの「ピーピー」という鳴き声なのです。
「ピーピー」という鳴き声で、母鳥の中で自動的に「カチッ」とスイッチが入り、テープが回っているように「サー」とヒナの世話をします。もし「ピーピー」という鳴き声が無ければ、母鳥は世話をせず、時には見殺しにすることもあります。
また、オスのヨーロッパコマドリも同じです。同じ種の別のオスが自分のなわばりに侵入すると、橙色の羽毛が生えた胸の部分に激しく攻撃します。
それはオスの橙色の羽毛が生えた胸の部分が見えたら、自動的に攻撃するのです。一方で、胸に橙色の羽毛がない本物にそっくりなヨーロッパコマドリの剥製に対しては、ほぼ無視でした。
動物には、多くのそのような「固定的動作パターン(カチッ・サー)」が数多く存在しますが、人間にも同じように多くの「カチッ・サー」が存在します。
現代社会は、過去に類を見ない規模で、あらゆることが複雑化している環境です。そんな時代に全ての事象や物事を人は理解し分析することは、時間的にも、エネルギー的にも、能力的にも不可能です。だから人間の多くは、物事を自動的に行動ができるように「カチッ・サー」である「思考の近道」を用いています。
ほとんどの場合は、この思考の近道である「カチッ・サー」はうまく機能してくれますが、中にはこの心理学を悪用する人間も存在します。それらに対して無知な私たちは、恐ろしいほど無防備だと、著者のロバートさんは警鐘を鳴らしています。
このような人間に見られるいくつかある「カチッ・サー」(承諾の心理)を、本書では「影響力の武器」と呼んでいます。それでは私たちに多大な影響を与える「影響力の武器」を一つずつ見ていきましょう。
影響力の武器「コントラストの原理」
人間の知覚にはコントラストの原理というものが働いており、
順番に提示されるものの差異を私たちがどのように認めるかに影響を与えます。
簡単に言うと私たちは二番目に提示されるものが最初に提示されるものとかなり異なっている場合、
それが実際以上に最初のものと異なっていると考えてしまう傾向があるのです。
影響力の武器より
例えば、不動産屋さんと賃貸物件を見に行くとします。だいたい「ボロい家」→「ボロい家」→「普通の家」の順で見て回ることは多くないでしょうか。「普通の家」は最初に見れば、いい家に見えませんが、「ボロい家」を見てからだと妙によく見えます。これがコントラストの原理です。不動産屋さんも実は、はじめから最後に見せた「普通の家」を売りたいので、このコントラストの原理を使うのです。
影響力の武器「返報性(へんぽうせい)」
返報性とは、「他人がこちらに何らしかの恩恵を施したら、
自分は似たような形で、そのお返しをしなくてはならないという」ルールなのです。
影響力の武器より
返報性の身近な例でいうとスーパーにもあります。たまにスーパーの中で行っている試食が返報性です。無料で試食すると「楊枝と紙皿だけ返して、帰るのも申し訳ないから1袋だけでも買って帰ろう!」とお返ししたくなるのです。あなたも心当たりないでしょうか。
さらに、先ほどの「コントラストの原理」と「返報性」をかけ合せる方法もあります。
例えば、人からお金を借りたいとします。その時は初めに少し大きめの額を要求し、最初の要求は断られることを想定しつつ、2回目の要求で本当に貸してほしい金額を提示し、お金を借りれる可能性を高めます。これが「コントラストの原理」ですね。
それにプラスして、お金を借りたい側は本当は10万円借りたかったが、そこを譲歩して「5万円を貸して欲しい」と切り替えることにします。すると、お金を貸す側も譲歩しないといけないという義務が生じ、お互いに譲歩するという「返報性のルール」が発動し、お金が借りれる可能性を高めてくれるのです。
影響力の武器「コミットメントと一貫性」
コミットメントと一貫性とは、一言で言えば、それは自分がすでにしてしまったことと
一貫していたい(そして、一貫していると他者から見てもらいたい)という欲求です。
ひとたび決定を下したり、ある立場を取る(コミットする)と、
自分の内からも外からも、そのコミットメントと一貫した行動をとるように圧力がかかります。
影響力の武器より
車が買いたくて、いくつかの店舗をまわっているお客様に対して、営業マンは「コミットメントと一貫性」を利用し、「うちは競合店より価格が40万安いですよ!」と営業をかけてきます。
同じ車で、価格が40万円も安いなら当然「この店舗で車を買おう!」となりますよね。そして契約(コミットメント)し、合わせてお客様には車の試乗もしてもらいます。
しかし、それだけでは終わりません。実は契約した金額の中に、ナビ代やETCなどの機械が付いていないことが発覚し(お店側がわざとする)、追加で40万円いることがわかりました。40万円がプラスされれば、競合店と同じ価格になりますが、すでに契約というコミットメントしているので、今のお店に追加でお金を払うことになるのです。
影響力の武器「社会的証明」
社会的証明とは、特定の状況で、
ある行動を遂行する人が多いほど、人はそれが正しい行動だと判断します。
影響力の武器より
テレビのバラエティで、観客が笑った声が挿入されていることがよくあると思います。それはテレビを見ている人が録音とわかっていても「自分以外でも多くの人が笑っている」という思考になり、大して面白くもない内容のことでも、録音の笑いにつられて私たち自身も思わず笑ってしまうのです。
また人気の飲食店では、長蛇の列が出来ていれば、「流行っている店だから、おいしいに決まってる!」と思い、行きたくなりますよね。これも味がおいしいか知らないのに長蛇の列が、店の質の高さを証明しているものになります。
影響力の武器「好意」
人は自分が好意を感じている知人に対してイエスという傾向がある。
影響力の武器より
好意に影響する要因の一つは、「身体的魅力」です。これに関しては分かりやすいですよね。女性であれば、基本的にイケメンには好感が高い傾向にあります。
二つ目の要因は、「類似性」です。類似性はそのままの意味で、自分と似た人に好意を感じ、物事を深く考えずイエスと言ってします傾向にあります。
三つ目の要因は、「称賛」です。あまりにも露骨すぎるのはマイナスになりますが、お世辞は一般に好意を高めることができます。
また車の広告で、美女が車の横にいるのを見たことはありませんか。これは、美女の美しさと好ましさをその車に付加することで、人は(主に男性)、車と魅力的な美女を同じように捉えてしまうのです。
影響力の武器「権威」
権威者に服従すれば報われる場合が多いと知った途端、
私たちはたちまち、自動的な服従の利便性に頼るようになる。
影響力の武器
見知らぬ人同士が楽しく会話していたとします。それまでは気軽に会話していたにも関わらず、片方の人が「実は大学で教授をしていまして・・・。」と話した瞬間に、相手は上品で、うなずくばかりの退屈な対応に変わってしまうのです。これはいかに権威のシンボルが強い影響を行動に及ぼすかがわかります。
影響力の武器「希少性」
手にはいりにくくなるとその機会がより貴重なものに思えてくる。
影響力の武器より
例えば、「この分譲地のなかに、角地はもう二区画しか残っていませんが、これがその一つなんです!」「生産中止になっているので、また手に入るかどうかわかりませんよ。今日のうちにもう1ケースお買い求めになりませんか?」など消費者に希少性を信じ込ませ、売りつけてくる「数量限定戦術」がよく使われています。
また、バイクを買う見込みのある人には、「販売員が提示する価格は今この場だけのもので、店を出たら最後、もうこの額は適用されなくなるよ」という「最終期限戦術」があります。
まとめ
これまでお伝えした「影響力の武器」を知っておくことで、「それは本当に正しい行動なのか」、または「心理的に人に動かされているのか」を見抜くことができます。
日々の出来事に対して、ただ反応するのではなく、一度立ち止まって冷静に考えてみるのもいいのではないでしょうか。
コメントを残す